
2011年9月21日
1. 台湾系スーパー大潤発(RT-Mart)の台頭
日系日用消費財(FMCG:Fast Moving Consumer Goods)メーカーの多くは、家楽福(Carrefour))に代表される大手量販店との交渉・商談で苦戦しており、多額の販促費を費やして売り場を確保している。
■量販店チャネルで収益確保が困難な背景
イギリスの広告代理店WPPグループの消費者調査会社Kantar Worldpanel Chinaの慮堅総経理によると「中国のFMCG売上高全体に占める近代的な小売販売ルートの割合はわずか46%に留まっている」「全国範囲で絶対的な地位を確立している小売企業はまだ存在しない」と、先進国の市場と比べ、小売が分散した状態にあると言う。
分散チャネルに対して、効率的に面をカバー(シェア及び売上高を確保)しようとした際、大手量販チャネルでの販売は避けられず、そこには大資本小売企業が多数存在する。家電業界であれば蘇寧電器や国美電器、食品・日用品業界であれば百聯集団や家楽福、沃爾瑪(Wal-mart)などで、分散チャネルの大多数のパパママストアとは異なり、いずれも大都市を中心にメーカーに対して大きなバイイングパワーを持つ上、小売側が商品の売買差益(=粗利)ではなく多額の販促費(リベート/バックマージン/リスティングフィーなどの其他収益)で利益を取る構造ができあがっており、日系メーカーにとっては収益確保が困難なチャネルである。
■遂に家楽福を抜いた外資系No.1スーパー大潤発(RT-Mart)
中国連鎖協会が2010年3月25日に発表した『2009年中国連鎖百強(中国チェーンストア上位100社)』において、第6位に大潤発(RT-Mart)という台湾系スーパーが位置している(家楽福は第7位)。
【2009年中国チェーンストア上位10社(中国連鎖協会より)】
2007年に256億元だった売上高が、2008年335億元、2009年404億元とこの間、CAGR25.6%の成長を遂げている。2008年のランキングでは家楽福の方が大潤発より売上高が大きかったものの、当時から既に1店舗当たり売上高は大潤発の方が上回っていた。
大手量販店のバイイングパワーが大きくなる要因として、ある商圏内において、特定の小売グループに集客力と販売力が集約化されている場合、当該売り場に並ぶことで自社商品を消費者が購入する機会が増えるため、メーカーは多大な販促費を払ってでも棚確保を狙う。逆に、メーカーと小売の関係が対等であれば、このような現象は生じにくい。しかし、小売グループの集約化(系列化)が進んでいる大都市(特に上海)においては、大手量販店の力が強くなっているのが現状であり、その典型的ビジネスモデルを作ったのが家楽福である。
では、家楽福と他の量販店との差が縮まることで、今後どういった変化が生じるのだろうか。
2. 中国市場を熟知した戦略
大潤発の中国本土での店舗数は143店舗(2010年12月31日時点)あり、北は黒龍江省から南は海南省、東は江蘇省を中心に沿岸部全域から西は甘粛省といった華東・華北・東北・華南・華中の5地区中国全土で2・3級都市を中心に店舗を展開している。
2010年には13省市で22の新店を出店し、また、Kantar Worldpanel Chinaが発表した2010年年次報告書によれば大潤発の中国全国市場シェアは6.1%に達している。
【湖南省長沙市の大潤発】
■市場のボリュームゾーンで戦う
日系企業の中国参入の多くのケースは、そのコスト構造や商品/サービスの品質、販売/マーケティングへの投下資本規模の点からハイエンドに近い市場及び沿海部大都市への参入が多い。結果として、市場のボリュームゾーン向けの商品/サービスではなく、一部の限られたハイエンド層に向けた訴求を行うことになっている。例外的に三得利啤酒(SUNTORY)のように、ボリュームゾーンに合わせたスペック及び価格訴求を最初から行い、ローエンド~ミドル市場での地位確立に成功したケースはあるが、日系企業の中では非常に珍しいケースであると言える。
大潤発の成長要因の一つに、ボリュームゾーンにポジショニングを取っている点が挙げられる。大潤発は、前述のように2・3級都市を中心に出店を行っており、1人当たりGDPが1万ドルを超える上海・北京を中心に事業展開を行う他の外資系企業とはポジショニングが明確に異なる。例えば上海にある大潤発の店舗も全て中心街からは外れた郊外にあり、中心街にある家楽福とのポジショニングの違いは明白である。
■価格イメージによる一点突破
大潤発は売り場の多くのカテゴリーにおいてローエンド価格帯のMD(マーチャンダイジング)を行っている。家楽福は自社と大潤発の価格帯の違いは知っているものの、ポジショニング/コスト構造/出店立地(=家賃・人件費)/サプライヤーとの関係/人材流出などがネックとなり、大潤発に追随できないどころか、中小都市での閉店が相次ぐなど、近年は苦戦が目立っている。
数年前に家楽福がスーパーマーケット及びハイパーマーケットにおける選定要因(MD/価格イメージ/プロモーションイメージ/商品品質/流行/サービスの質/売り場環境)に関する調査を上海で行った。その結果、大潤発が価格イメージでトップとなった以外は、他の指標は全て家楽福がトップとなった。大半の顧客にとっては、大潤発の価格は一般的に家楽福よりも低く認識されている。価格イメージの良さ(=安さ)は、現在の中国の小売業にとっては重要な集客要因となっている。価格イメージ以外の要素で大潤発より優れている家楽福が大潤発に売上高で抜かれた点を見ても、いかに価格イメージの影響が集客に影響を与えるのかが推察される。
通常の購買行動は、買回り品(=耐久財)と最寄品(=消費財)によって異なる。大潤発や家楽福の扱う商材の多くは最寄品であり、消費者にとってのKBF(購買意思決定要因)は、価格/MD/売り場環境が上位に来る。大潤発は価格において家楽福などの外資系ハイパーマーケットと差別化を図り、MD/売り場環境において中国スーパーマーケットと差別化を図ることで独自のポジションを構築している。
大潤発のポジショニングの特徴は、大資本の欧米系小売業の集中する大都市や人口集積立地を避け、1人当たりGDP3000ドルという国際社会の中で決して豊かとは言えない中国のボリュームゾーンを狙った価格戦略と出店戦略であり、中国市場を十分にマーケティングした成果と言える。