
2011年11月10日
3. 経営理念の体現
大潤発の経営理念は「新鮮、安い、快適、便利」である。ローエンド市場にありがちな「安かろう、悪かろう」ではなく、1人あたりGDP3,000ドルという中国の平均的な大衆をターゲットとした差別化を経営理念・戦略で打ち出している。
【店員の制服には大潤発の経営理念が書かれている】
■経営理念を具現化した店舗・売り場づくり
大潤発の売り場において、「新鮮」という理念は、新鮮な果物や野菜などの商品だけを意味するのではなく、鮮やかなVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を含んでいる。FMCG(日用消費財)などの生活必需品においても信頼性の高い流行ブランドを選ぶことで「新鮮」という理念を具現化している。また、実際に店舗に行くと、この「新鮮」という理念が、他のスーパーとは異なるコンセプトによって具現化されているのかが分かる。売り場には生きた魚をすくい上げる顧客の姿、目の前で処理された新鮮な豚肉に行列する顧客の姿、加工処理された新鮮な状態の地域特産品(例えば、湖南省長沙の店舗では鴨)を吟味する顧客の姿など、顧客が買い物を楽しんでいる様子が見て取れる。
「安い」という理念を具現化するために、大潤発藉由欧尚集団はグローバルでの共同調達を行っており、調達コストを大幅に削減するだけでなく、質の高い商品を世界中から調達する仕組みを構築している。また、2001年には輸入品と自社商品(プライベートブランド)の品揃えを増やすなど、品質を担保しつつ調達コストを削減する工夫に余念がない。一連のSCM(サプライチェーンマネジメント)は、提携先である仏系の欧尚(Auchan)が持つ40年以上のグローバル小売ノウハウを大潤発に導入した成果であると言える。
「快適」という理念を具現化するために、売り場レイアウトに工夫を凝らしている。売り場の縦方向は主要導線で、横方向に商品カテゴリー分類を行い見やすい表示案内やPOPなどを用いてゾーニングを行っている。店内には、美食街/レストラン/セレクトショップ/商店街などを設け、来店客がFMCGを購入する以外にも楽しめるような設計になっている。また、店舗の一部には薬局/郵便局/コンビニエンスストア/タイヤ修理交換所などを併設している店舗もあり、地域住民の生活行動習慣を把握したサービス提供を行うなど、お店をより親しみやすく、便利な空間にする工夫を行っている。
「便利」という理念の具現化は、顧客の様々な異なるニーズを満たすためにワンストップショッピングを可能にする品揃えを行っている。また、自動車や電気自転車の駐車スペースの十分な設置など顧客来店時の利便性も高めている。
■地域に合わせたVMD
中国で小売店を訪れた際に、多くの人は共通した点があることに気が付くだろう。売り場/陳列が分かりづらく、VMDやPOPなどの売り場プロモーションが不十分で、商品状態の悪いものや欠品が目立ち、店員/推販員が顧客満足やサービスなどの顧客志向の接客を行っていないという点である。
VMDとは、商品計画から仕入・陳列・売り場演出・内装・什器設計等の店舗環境表現に加え、POP/サイン/看板/装飾物といったグラフィック表現など、店舗が顧客に伝えたいメッセージを目で見てすぐに分かる形に置き換える店舗マネジメント手法である。すなわち、SI(ストア・アイデンティティ)を具現化した手法であり、大潤発の成功要因のひとつでもある。VMDを構築する際には、明確なSIと店舗環境特性/立地/商圏/顧客等を深く知ることが重要で、その地域特性にあった品揃えや売り場づくりを行っていく必要がある。
価格で家楽福などの欧米系ハイパーマーケットより安く、売り場/商品品質で中国スーパーマーケットより充実していることが、大潤発の差別性であり成功要因であるが、その中核にはVMDがある。
【生鮮野菜売り場は「緑色」、精肉売り場は「赤色」というように売り場を色で演出している】
2. 現代のエクセレントカンパニー
「文化のない軍隊は愚かな軍隊、誠心誠意人民のために尽くすのが我が軍の唯一の使命」とかつて毛沢東主席は言っている。軍隊の組織構築と企業のそれは似ている側面があり、企業間の競争は企業文化と人材の競争と言いかえることもできる。松下幸之助も「事業は人なり」と言った。日中文化は異なれど、経営の原理原則は同じであり、組織は人材を育て、文化を継承していかなければ衰退していく。
アリババ/蒙牛/王老吉など、この10 年で急成長を遂げた企業と同じく、大潤発も経営理念を体現するための人材育成は重視している。
■顧客志向の経営
2001年に大潤発の出資会社である台湾の潤泰集団と仏系の欧尚(Auchan)集団は共同出資により香港太陽控股公司を設立し、大潤発に欧尚が持つ40年以上のグローバル小売ノウハウを導入し、中国内で信頼されるスーパーマーケットになるために専門サービスと地域社会との相互関係の構築を目指した。
大潤発では、欧尚から導入した従業員育成トレーニングを毎週1時間を行っており、小売業・接客業としての専門技能・知識の教育を施している。また、各店舗には地域のコミュニティに参加することが奨励されており、地域活動を通じて各地域の消費者ニーズの理解に努め、毎年実施する顧客満足度調査結果から問題点を導出し、従業員起点で改善に当たっている。
多くの中国の小売業が未だに「販売志向」が強い中、大潤発は「顧客志向」の経営を既に行っている。とは言え、店内では店員や警備員と顧客が口論する姿も未だに見られ、日本の「顧客志向」の水準と比べるとまだまだ次元が低いと言えるが、顧客と店員が殴り合いの喧嘩をする家楽福と比べると、ましではある。
顧客志向とは、1970年代にアメリカのセオドア・レビットをはじめとするハーバード大学の研究者達が提唱したマーケットイン(顧客の望むものを知り、それを提供する)の概念であり、先進国の小売業では様々な手法で実践化されているが、中国の小売業ではまだこの概念はほとんど実践されていない。
■末端の従業員を大切にする
1982年にアメリカのトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンが著した『エクセレントカンパニー』の中で、「何が優れた企業を生み出すのか」という研究を行ない、エクセレントカンパニーが持つ8つの特徴を導出している。大潤発はその内の2つを中国で注力している。すなわち、「顧客に密着せよ:顧客に近づき、顧客を知れ」と「人を通じて生産性を向上させよ:敬意を持って社員に接せよ。さすれば彼らは生産性をもって企業に報いる」である。
大潤発の多くの一般従業員の給料は最低賃金水準であるが、従業員のモチベーションを高め、離職率を低減するために、従業員持ち株制度を採用している。現在、大潤発の従業員持株比率は10%程度であるが、将来的には16%程度まで比率を引き上げようとしている。現在、大潤発と欧尚は中国本土事業集約を狙い香港での上場準備を行っている。香港証券取引所が今年行う人民元建て株式の解禁と併せると、大潤発の従業員持株制度は末端従業員にとっても少し夢を持てる制度である。
大潤発のある管理職は「従業員は最も重要で、企業の成功は従業員が要因で、企業の失敗はマネジメント層の誤りが原因」と言っている。
■差別性/競争優位性を支える人材力
中国では業種を問わず小売店の接客レベルや売場づくりの水準の低さは概ね共通している。前述した通り、大潤発は地域に合わせたVMDが差別性であり、成功要因の一つであるが、中国本土で143店舗(2010年12月31日時点)を展開する中、本部の中央集権オペレーションだけで店舗品質を保つのは現状の中国においては至難の業である。もちろん大潤発の成功は、中国のボリュームゾーンで戦うポジショニグ及びそれを可能にしたサプライチェーンやMDが直接的な要因であることは間違いないが、強みを継続させていけているかについては、末端従業員の人材力(特に、EQ)をいかに高めるかにかかっている。
2009年末に家楽福が沃爾瑪に買収されるという噂が流れた。当該年は大潤発の1店舗当たり売上高が家楽福を上回った年でもあり、買収の噂に拍車をかける一因にもなったが、変化の激しい中国において、常に顧客接点を強化する取り組みは、競争優位性においてはもとより、企業存続においてもますます重要度が高くなっていることが大潤発と家楽福の比較対象によって伺える。
<続く> 今シリーズ 『台湾系スーパー大潤発(RT-Mart)の台頭』 は3回に分けてお送りいたします。
第1回はこちら